多分そのままでいい
鈴木隆子
学生時代にちゃんと勉強しておけばよかった。
若い時にもっと遊んでおけばよかった。
あの時やっぱり告白もしくはプロポーズしておけばよかった(しなければよかった)。
あの人に、ああ言ってあげればよかった。
とか、
昨日買ったあれが、今日もっと安く売ってるのを見つけてしまった。
うっかりしてたらあのライブのチケットが売り切れてしまった。
とか、日常には小さなことから大きなことまで、「時間を戻したい」と思う事が結構ある 。映画『サマータイムマシン・ブルース』も、そんな状況から一波乱起きる物語である。
舞台は夏休み真っ最中の、とある大学のSF研究会の部室。そこでちょっとした事故が起 こり、部室のクーラーのリモコンが壊れてしまう。季節は真夏。日中は陽炎(かげろう) がのぼるほど灼熱なので、クーラーが動かないと研究も進まない(でも部員達(瑛太、与 座よしあき、ムロツヨシ 他)は、SFとはどんな意味なのかも知らないらしいのでその心 配は無用)。
この状況を打開するべく、ゴミ捨て場に扇風機を探しに行ったり、顧問のホセ(佐々木蔵 之介)にリモコンの修理をお願いするなど奔走するが、いずれもうまくいかない。 すると、頭を抱える部員たちの前に、突如未来人の田村君(本田力)を乗せたタイムマシ ンが現れるのだ。そこで彼らは、昨日に戻ってまだ壊れていないリモコンを取りに行こう とひらめき、タイムマシンに乗り込む。
悪ふざけが大好きなメンバーばかりなので、かなりカジュアルにタイムマシンに乗り現在 と過去を行ったり来たりする。途中でタイムマシンが壊れて、帰ってこれなくなったらど うするの? と思うぐらい行ったり来たりする。
もしこんなふうに、自分の目の前にもタイムマシンが現れたら私はどんな使い方をするだ ろう? この手の質問の定番の答えだけど、やっぱり昔の後悔している出来事を、過去に 戻ってやり直したりするのだろうか。でも、本当にやり直す事ができたとしても、そこだ けピンポイントで変わる事はありえない。その出来事に沿って起きたことや出会う人など 、全てが変わっていくのだから。
例えば、私は映画が大好きだけど、好きになったきっかけとなる出来事やそこに行き着く までの過程が、過去の出来事をやり直したことによってスッポリ抜けてしまったら、私は この作品の事も知らず、今こうして文章を書いていることもしていない可能性がある。そ れは嫌だな…。でももし本当にそう変わってしまったら、「この事を知らないという事を 、知らない」という状態になるので、嫌だという感情は生まれないのだけど。 こうしてちょっと妄想してみて私は、たとえ過去に戻ってやり直したい事があったとして も、時計の針は戻せないほうがいいんだと思った。実際、時計の時間を調整する時に、針 を進めるのは良いけど戻すと時計が壊れると聞いた事もある。(それぞれの時計の仕組み にもよるらしい。)
この映画の中の時間軸を整理するのには時間がかかるけど(SF研究会の一人である石松 (ムロツヨシ)ぐらい私は時間がかかった。サクッと理解できる人も沢山いると思う 。)、その過程も結構楽しかった。なぜ突然タイムマシンが現れたのか、そもそもなぜリ モコンが壊れるあの出来事があったのかも、整理し終わって理解できたので、時間差で「 あ〜」とジワジワくるあの感じを、真夏が舞台のこの映画で今時期の寒さを吹き飛ばしつ つ、ぜひ楽しんでいただければと思う。
<鈴木隆子プロフィール>
東京生まれ東京育ち。現在、映画や眼鏡専門のWEBメディアで編集・ライターをしてい る。中学生の頃から音楽や映画などのサブカルと並走しながら成長、今もあまり変わらな い生活を送っている。映画館のある街に住むという夢は達成。