オミヤゲの行方。
国分優
テーマは犬ですよね。いぬ、イヌ……、(やばいHACHI -約束の犬- が浮かんでしまった汗) 主人公が犬じゃなくてもいいですかね? 『DESPERATE LIVING』という映画があるんですけど、1977年のジョン・ウォーターズ監督作品で、大好きな「犬」のシーンがこの作品の中にあるんです。『フィメール・トラブル』の後にジョン・ウォーターズが作った、”革命がらみのレズビアン・メロドラマ”(神聖冒涜やスカトロはもうやってしまっていたので安全を考慮して作った”精神的苦痛とペニス願望と政治の腐敗をテーマにした怪物的おとぎ話のコメディ”と自身は表現。観客のターゲットは精神年齢八つのニューロチックな大人)なんですけど、ネズミの丸焼きをお皿に盛り付けた画にキャストのクレジットが流れるエレガンスなオープニングで始まり、敵のラスボス(人間)を丸焼きにして倒すエンディングで終わるコメディ映画です。プロット自体はなんてことないのでネタバレもくそもないのですが、演者の一挙手一投足や言い回し、小道具やファッションなど画面に映り込むありとあらゆるエキスが極上で、90分間のどの瞬間どのセリフをどうスクリーンショットしてもゴックンものの最高(低)級作品です。そして、この映画の全場面を愛している自分を特に興奮させてくれたのが、たった5秒間の「犬」のシーンなのです。
舞台はあのボルチモア。アッパー・ミドル・クラスのヒステリー女ペギー(ミンク・ストール)が、グリゼルダという体重200kgのメイド(ジーン・ヒル)と共謀して旦那を殺害(グリゼルダがお尻で圧殺!)するところから物語は始まります。2人は逃亡を試みますが、すぐに白バイど変態警官によって御用。”すれば”見逃してくれるとのことでなんとかやり過ごし、この警官から”モートビル”という犯罪者も自由に暮らせる町の存在を聞きだします。いざ向かったモートビルは、臭い!汚い!ゴミだらけ!の、この世の果てのような所で、住民ももれなくがいきちオンリー(ちなみに町の雰囲気に怯えるペギーに「豚バコよりマシでしょ」というグリゼルダのセリフがあるんだけど、実生活でジョン・ウォーターズが刑務所で講師を務めていたクラスの生徒=豚バコに住んでいる方々にこの映画を授業で観せたら「モートビルに行くくらいなら刑務所に残る」と言われたそう爆)。まず2人は宿を探すのですが、見つけた宿の家主は、モール(スーザン・ロウ)という元・レスラーの人殺しと、モールの”美味しいGF”ことマフィー(リズ・ルネイ)のレズビアンカップル。そしてここで、”犯罪者でも自由に暮らせる町”に補足があったことを知ります。モートビルにはカルロッタ女王(イディス・マッセイ)というのがいて、彼女とその用心棒たちから受ける無茶ぶりや屈辱に耐えることがで・き・る・な・ら、犯罪者でも自由に暮らせる町だと。女王に逆らえば即銃殺刑だと。彼女がどれだけヒドいかというと、例えば、いきなりゴキブリを口に放り込んできたり、集団予防接種と騙して住民を狂犬病に感染させる計画を企てたり、自分の娘を家来たちに強姦させたり、「今日を逆の日に制定する!」と急に言いだし住民達の洋服を前後逆にしちゃったり(これは遊びゴコロあり)、とにかく、彼女の一言一言がそのまま法律になるごりごりのファシズムタウンだったわけです。その女王を倒すべく住民たちがクーデターを決行し、力を合わせてやっつける! チャン♩チャン♩ という映画。で、ここまで長々説明しことにより犬の話をするのがちょっと恥ずかしくなってきました、、、ひょっとしたら、映画史上最もくだらないワンシーンなのですから……。(でも頑張って書くね)
物語の中盤。モールが宝くじに当たるんです。モールは街に出て、その大金で一番欲しかったものを買います。なんだと思いますか。そう、”つけちんぽ”です。向かった先は、ホプキンス病院・SEXUAL REASSIGNMENT CLINIC(性転換科)。予約をしてなかったので追い返されそうになりますが、当たり前のようにナイフで医師を脅して性転換手術を希望するモール。
「手術して”棒”をつけてくれ。すぐにやれ!」
- なぜか乳を揉みながらモールの帰りを家で待つマフィー -
モール「ただいま〜 プレゼントだよ〜」
マフィー「わ〜新しいブラジャーね♡ クリスマスの朝みたいだわ! 諸・悪・の・根・源・ア・メ・リ・カ・紙・幣・♪」
モール「女王様気分はまだ早いよ!ブラの次は38口径の銃をプレゼントだ〜。」
マフィー「優しいのねモール。(うっとり) あなたなしでは生きられないわ〜」
モール「へへへ〜 もう1つあるんだ。すごいオミヤゲさ。腰を抜かすなよ。」
マフィー「チワワ!?チワワ!?」
モール「違うさ。目をつぶって。」
マフィー「(目をつぶる)ドキドキしてきたわ。」
モール「オープンユアア〜イズ♡」
マフィー「ギャャャャャャャャャャャャャーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!!」
モール「お前のために性転換したのさ!」
マフィー「いやだ!そんな怪物!ウジ虫!」
モール「早速試してみよう!新型なんだ。病院の推薦品さ!」
マフィー「切ってよモール!薄気味悪い模造品なんてイヤよ!」
- セックスしながらゲロをはくマフィー -
マフィー「そんなもの早く切って!」
モール「そこまでいうなら! 科学なんてクソ食らえさ!」
- チ・ョ・キ・ン・ - (失神するモール)
- 落ちたちんぽを拾って玄関から外にほおり投げるマフィー -
- パクり - (野良犬)
♡YES, THIS IS SHOCK VALUE♡
以上です。(大丈夫ですかね?)
P.S
犬と映画というお題、意外と難しかったです。犬あんまり好きじゃなくて。今日も最寄りの駅前に犬を連れておそらく募金的なことをしている団体がいたんですけど、見かけると少しテンションが下がるんです。犬に関心のないこっちのせいか、うっすら胡散臭いあっちのせいか、あの感じなんなんだろ。
P.SのP.S
あ。映画とは関係ありませんが、犬のこと考えてたら突然思い出した話があるので書いていいですか。まじで関係ないんですけど。中学校の同級生にコダテくんという生徒がいたんです。台湾人と日本人のハーフでした。ある時、「コダテくんは犬を食べているらしい」という噂がクラス中に広まりました。僕が中学時代を過ごした20年ほど前の岩手県盛岡市という場所は、外国人すら見かけることもない田舎だったせいか、ハーフのコダテくんの存在はやっぱり少し特別で、その噂はみょうに信ぴょう性を帯びて広がりました。僕はコダテくんに聞きました。「犬食べてるって本当?」。コダテくんは「お母さんがね!」と言いました。続けて、「今からウチにくる?お母さんもいるし。」というコダテくん。あの時、すごくこわかった。コダテくんのお母さんにドキドキして会った。少しカタコトで、チャキチャキしてる感じの人だった。小花柄のワンピースを着ていた。当時『ねるねるねるね』というお菓子があったのだが、僕は犬を食べている(らしい)コダテくんのママに対して、そのCMに出てくる魔女のようなルックスを期待していたのでがっかりした。僕は玄関先ですぐに聞いた。「犬食べるんですか?」って。答えも期待はずれで、昔台湾で暮らしていた時に食べたことがある、という程度だった。コダテくんのお母さんに、「その噂が広がっていることは学校の先生にも聞いてたのヨ。でも私に聞いてきたのはゆうくんだけネ。ゆうくんはインタビュアーとかエディターっていう仕事が向いてるワ」と言われた。今それを急に思い出した。コダテくんのママー、そういえばその仕事やってるよ。
国分優(こくぶゆう)
編集者。直近の編集仕事に「CRAZY LOVE TYLER,THE CREATOR」(今月発売の雑誌POPEYEにBOOK IN BOOKとして掲載中)等がある。ginzamagにて自身の音楽連載「編集者・コクブユウがGINZAガールに薦めるプレイリスト」他、「加賀美健&題府基之のフェ・フェ・フィックション!!」「MUSIC AROUND THE TOKYO」等を担当し、雑誌POPEYEでもアート&音楽の連載の他、漫画家・蛭子能収さんとの連載でエッセイの執筆も行う。本作と同名のショップ『DESPERATE LIVING』と共作リリースしたMIX-CDが現在発売中。